
気配と主張のあいだに、個性は生まれる
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現代は、発信の時代。
ノートブックを立ち上げ、
スマートフォンをタップし、
最初にチェックするのはSNS。
世界中の誰もが、自分の言葉で
「何かを伝える」ことを求められている。
何かを伝えなければ、置いていかれる。
けれど、伝えすぎて、自分が薄れてしまう。
写真にキャプションを添える。
動画にナレーションをつける。
その先に、ほんとうの「自分」は
残っているのだろうか。
そんな時代に、言葉に頼らず、
語る方法があるとしたら。
「装い」がその一つであることを、
私たちは思い出したい。
日本には、昔からそんな美学があった。
語らず、目立たず、しかし芯を通す。
空気を読み、場に溶け込みながらも、
決して迎合しない。
──忍ぶという、静かで強い精神。
いま、この「忍び」の美学を、
服に込めてみるなら──
歴史を辿れば、忍者の姿に行き着く。
彼らは、誰かと戦うのではなく、
自分を生き抜いた。
逆らわず、抗わず、しかし揺るがない
「静けさ」に宿る強さと美しさ。
森の中でも、街の中でも、
景色の一部となるように佇む。
その身の置き方を服に仕立て、
現代を生きる私たちが装う。
KUONは2025年秋冬、
「忍- Shinobu -」をテーマに、
語らずとも伝わる服、
その一着一着に“Shinobu”を込めた。
インターネット上で繰り返される主張、発信。
現代社会を「生き抜く」には、
自分を主張するスタイルよりも、
その日、その時の空気に溶け込む
静かなスタイルを選択肢に。
けれど、それは「シンプルな服」を
指すわけではない。
現代のベーシックに溶け込むようで、
「少しの違和感」をまとう服。
街の空気と静かに馴染み、
着る人の個性を押し出すのではなく、
その人の中にある静かな意志を、
そっと浮かび上がらせる服。
語らない服、主張しないデザイン。
それは、個性がないということではない。
言葉にしない余白にこそ、私たちの個性はにじむ。
Shinobi Transformable Jacket & Vest
スマートフォンひとつで、映画を観て、
会計を済ませ、友人と連絡を取る。
かつてバラバラだったモノたちが、
ひとつに収まる時代。
服だって、ひとつでいいのではないか。
Shinobi Transformable Jacket / Vestが、
次の服をつくる。
Shinobi Transformable Jacketは、
日常のあらゆるシーンに寄り添う。
そのままジャケットとして街へ出てもいいし、
裾を伸ばせばロングコートに、外せばマフラーに。
取り外したパーツは、
トートバッグの中でまた出番を待つ。
夕方になって寒さを感じたら、
取り出してマフラーに。
気分や天候、誰かに会う予定に合わせて、
服を変えるのではなく服の形を変えて、
日々揺らぐ「自分らしさ」を装う。
ベストは、さらに静かに、しかし大胆に変化する。
フード、スタンドカラー、ノーカラー。
襟元のデザインが変われば、印象は変わる。
さらに、身頃はエプロンスカートにもなり、
ときに整った装いにノイズを加え、
ときに装いの重心をそっとずらす。
そして、フードは巾着としても使え、
Shinobi Transformable Jacketと組み合わせて、
フードジャケットにもなる。
ひとつひとつのディテールが、
他のアイテムとも呼応し、自分の中にある、
「いくつもの自分」に応えてくれる。
スマートフォンに求められるのは、
コンパクトさと多機能性。
ならば、ファッションもそうあっていい。
一つのアイテム、
一つのスタイルにとらわれない自由。
その発想を、KUONは
身体の側から考える。
変化に応じて、形を変える。
それは決して派手な変身ではなく、
静かに、自然に、景色に馴染む変化。
忍者は、存在しながらも
存在感を消す術を知っていた。
その精神は、いま「服」というかたちで蘇る。
日常に溶け込みながらも、芯がある。
機能に満ちていながら、静かに佇む。
Shinobi Transformable JacketとVestは、
現代を「生き抜く」ための服であり、
まだ名前のない、あなたの一面に応える服。
そしてこの二着には、まだ楽しみがある。
それはここでは明かさないことにしたい。
裏は表に反転する。
忍びには、沈黙が必要な時がある。
Kimono Collar Quilted Shirket
個性を磨け。特徴を出せ。
インターネットの中では、
世界中の人々がライバル。
投稿には、目を引く要素が必要とされる。
けれど、実生活でも同じルールが必要だろうか。
個性化を競い合うほど、
個性が街中にあふれ、
その結果として個性化は、
珍しいものではなくなる。
ノームコアの背景には、そんな皮肉もあった。
驚くほどシンプルな服が注目された後、
ゴープコア、ブロークコア、バレエアコア……
「コア」という名の個性が次々と現れた。
その流れに反するのはどうだろう。
あえて特徴を削る。
それでもにじみ出るものを、
個性と呼べるのではないか。
Kimono Collar Quilted Shirketは、
洋服の文脈で見ればダブルブレステッドの
テーラードジャケットに近い。
しかし、この一着はテーラードの
象徴をそぎ落とす。
衿はノッチドラペルでもピークドラペルでもなく、
静かに胸元を彩るキモノカラーを選んだ。
オリエンタルな衿は、視線を集めず、
ただ静かに、着る人の気配を変えていく。
首元は着る人、合わせる服によって
自在に表情を変える。
タートルネックとも、クルーネックとも、
あるいはシャツとも、控えめに呼吸を合わせる。
強い個性がないからこそ、生まれる個性がある。
言葉が少ない人だからこそ、惹かれていく。
個性を競うレースから、一歩外れてみる。
そこでしか見えないシルエットがある。
風の音や足元の感触、すれ違う人の空気。
その輪郭は、私たちの中に確かにある。
それは、見過ごすには惜しい価値。
このシャツジャケットは、主張しない。
けれど、着る人の動きや息遣いに合わせ、
姿を現す。
“Shinobu”とは、ただ耐えることではない。
周囲に溶け込んでも、消えない自分の芯。
Kimono Collar Quilted Shirketは、その精神を、
秋冬の日常の中で、そっとかたちにする。
Reversible Kimono Collar Blazer & 2 Tuck Trousers
ストライプは、規律と権威の象徴であり、
境界を引くための線だった。
20世紀初頭、金融の中心地ウォール街。
エリートたちに愛されたストライプは、
着る者に権威をまとわせると同時に、
誰と誰を分け隔てるかを示す線でもあった。
2025年、かつて境界を引くためだった線に
縛られる必要はもうない。
職業と服装におけるルールも、
かつてほどの効力を持たくなった。
ストライプという西洋の規律に、
袴から着想を得て作られた2タックパンツと、
キモノカラーが襟元をかたちづくるジャケット。
規律を象徴する白い線は、
和のシルエットと呼吸を合わせ、
西洋と日本のあいだにあったはずの、
境界線をほどく線となる。
ショート丈のボックスシルエットは、
ジャケットにあるはずの緊張感を取り除き、
深い股上と緩やかなボリュームは、
トラウザーズの厳粛さをやわらげる。
服で権威を誇示する時代ではない。
規律に縛られない自由を着る時代だ。
クラシカルな生地で仕立てた、
クラシカルな服が伝統とは無縁の
シルエットとディテールを宿している。
クラシックは“Shinobu”の精神に導かれ、
ストリートへ軽やかに踏み出す。
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Reversible Kimono Collar Blazer